Happy Bath
day
桃先輩の誘いを断って、肩にはテニスバッグ、ついでに青学の制服で氷帝の校門前に立つ。
…もう練習終わってたりしたらシャレになんないかも…
「青学のぼーずやん」
「ちーっす」
「跡部やったらもうすぐ来るんとちゃうか〜〜」
「侑士、早く帰ろぜー」
「ああ、わかったわかった。またな、ぼーず」
俺の頭をひと撫でして向日先輩を追いかけて行ってしまう。
何だかんだ言って向日先輩に甘い忍足先輩。
ああやって、目に見えて大事にされてる向日先輩を見てると少し羨ましくなってしまう。
俺の待ち人は甘やかすどころか、ケンカを売ってくるし。
「リョーマ」
「なんか用なの?」
待ち人登場。氷帝学園テニス部部長、跡部景吾。
「景吾の弟?」
…っていうか、人をわざわざ呼び出しておいて。
何でオンナ連れてるわけ?このオトコは。
「妬いてんのか?リョーマ」
口の端をあげてにやりと笑いながらそんなことを言う。
たぶん、こいつの言う通りなんだろうけど、悔しいから認めてやるもんか。
「は?何言ってんの?アンタ」
思いっきり馬鹿にしてやった。
「アーン?違うとでも言うつもりか?リョーマ?」
「まさにそのつもりだけど?いきなり電話してきて、呼び出したのはそっちでしょ。
で?何の用なのさ?」
「お前はもう帰れ」
腕に絡み付いてた女の人を振りほどいてそんな事を言う。
「ちょっと!?景吾?」
「お前が勝手にくっついてただけだろうが。俺様がお前ごときと一緒に帰るなんてマジで
思ってたのか?だったら随分とお粗末な思考をしてやがるんだな」
何てヤツだ。
一体何様のつもりなんだろう。
コイツの性格を熟知してるらしい女の人は一瞬悲しそうな顔をして、何事も無かったように
帰っていった。
…コイツ、しょっちゅうこんなことしてるんだ…
「帰るぞ、リョーマ」
「アンタなんかと帰るの嫌だって言ったらどうするわけ?」
「言うのか?」
「聞いてるのは俺なんだけど」
不機嫌を隠さずに速攻言い返すと頭上から溜息が聞こえた。(頭2つ分くらいは余裕で違うから
しょうがないんだけど、やっぱりムカつく)
「…お前、何拗ねてるんだ?」
「別に」
あからさまな子ども扱い。コイツのこういう態度はよけいに俺をムカつかせる。
ケンカを売ってきたと思えば軽くあしらわれて。
テニスでだって今一歩敵わない。
「リョーマ」
耳元で名前を囁かれてびくりと体が震える。
…なんでコイツの声、こんなにエロいんだろう…
いつの間にか腕が俺の腰に回っていて逃げられない。
「ちょっと、ケイゴ。この腕何?」
言ってしまってから俺は自分の口を抑えた。けれどもう遅い。
おそるおそる見上げると、にやにや笑ってるケイゴの顔。
「やっと俺様の名前を呼んだな?」
「……」
「お前は拗ねると途端に俺様の名前を呼ばなくなるから分かりやすい」
「うるさいよ。自分が悪いんでしょ」
「あんまり、生意気な事ばっかり言ってるとその口塞ぐぞ」
「………っ」
俺は再び自分の手で口を抑えた。こんな所でキスされるなんて冗談じゃない。
絶対にフレンチキスですむはずないし。
「くっ………」
俺の仕草がケイゴの予想通りだったらしく肩を震わせて笑を堪えている。
……なんかすっごくムカつくんだけど。
「…いつまで笑ってるわけ?なんか用事があったから、俺をわざわざ氷帝まで呼び出したんじゃ
ないの?」
「ああ、そういえばそうだったな。」
「そういえばって…」
「お前がおかしな意地を張ってるからだろ」
…自分のことを棚に上げて…何を言ってるんだろう。
……この俺様には何を言ってもきっと無駄なんだ。
だから俺が大人にならないと。
「…で、用件は?」
「……リョーマ。何処で覚えてきたか知らないが、可愛くねーぞ。その反応」
…人がせっかく大人な態度で会話を進めようとしてるのに…
「悪かったね。可愛くなくて」
「気にすんな。お前の可愛い所は俺だけが知ってりゃいい。それより、用件だがな、」
なんかケイゴの様子がおかしい。
柄にも無く照れているように見えるのは俺の気のせい…?
「…なに、これ。」
いきなり手のひらに乗せられたのは綺麗にラッピングされた小さな箱。
ケイゴを見上げれば開けろと目が訴えている。
丁寧に包装を解いて、ベルベットの箱を開ける。
最初に目に付いたのがどこかで見たブランドロゴ。
中に入っていたのはシルバーで出来た2枚のネームタグ。
1枚目にはRyoma Echizen。
2枚目に、Keigo Atobe。
そう印字されていた。タグの端にはテニスラケット。
「お前、今日誕生日だろう?」
そう言いながらネームタグを首に掛けてくれるケイゴの顔はほんの少し赤かった気がする。
「……これ、ケイゴの名前なんだけど」
「当然だろ。こっちは俺様のだからな」
ケイゴは平然と俺の名前の入ったタグにキスをして自分の首に掛けてしまう。
「…リョーマ。お前はずっと俺様の傍にいろ」
「当然でしょ。勝ち逃げは許さないよ」
俺ってば結構負けず嫌いだからね。むしろ、ケイゴが強ければ強いほど燃えるタイプだし?
「……Happy Bath Day Ryoma」
綺麗な発音で俺への祝福とキスが同時に降ってきた。
跡リョでございます。前サイトの再録で御座いますが…